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2024年のアメリカのAI投資額(1091億ドル)は、日本の推定投資額(約10~20億ドル)。違いは約50~100倍の規模だ。
引用元: Stanford AI Index Report 2024 発行元: Stanford Institute for Human-Centered Artificial Intelligence (HAI) https://hai.stanford.edu/ai-index/2025-ai-index-report
なぜアメリカは世界を変える技術に一気に投資するのか
アメリカの投資姿勢を見ていると、歴史の教訓が活きているのがわかる。一つの例は第二次大戦中の原子爆弾開発だ。当時、ドイツとの核開発競争に危機感を抱いたアメリカは、マンハッタン計画に約200億ドル(現在価値)という莫大な資金を投入した。結果として、ドイツに先んじて核兵器を開発し、戦争の行方を決めた。同時に、ソ連の日本侵攻より先に戦争を終結させることができた。
この「世界を変えうる技術に対し、必要だと判断したら一気に投資する」という姿勢は、AIや量子コンピューターへの投資でも同じである。量子コンピューター(暗号解読、新薬開発、金融リスク分析、物流最適化など、あらゆる産業に革命をもたらす可能性を秘めている技術)市場についても、2024年の市場規模は約11億6,010万ドルであり、2032年までに約126億2,070万ドルに達するとされているという急成長が予測されており、アメリカは官民一体で巨額投資を続けている。
戦場が証明したAI技術の重要性
この投資の緊急性を物語っている例の一つが、ウクライナ戦争である。特にウクライナ戦争では、AI 軍事支援システムの活用とともに、商業用ドローンを改造して偵察・攻撃に用いる戦術が比較的低価格で高い成果を上げており、AI技術が現代の安全保障において決定的な要素となっていることが実証された。
戦場のDX(デジタルトランスフォーメーション)」が急速に進んでいることが、ウクライナ戦争で顕在化した。衛星インターネット網を提供したイーロン・マスクにも大きな注目が集まったのは記憶に新しい。従来の軍事力だけでなく、AI、ドローン、量子技術などの最新技術が戦争の行方を左右している。
これは軍事だけの話ではない。こうした技術が民間のビジネスにも応用され、産業構造そのものを変革していく。AIや量子コンピューターは、いずれも「世の中のルールを変え得る技術」なのである。
スケール則が示す投資の確実性
AI投資の緊急性を語る上で見逃せないのが、「スケール則」という発見である。現在ではスケール則によって、LLMのパラメーター数を増やせば増やすほど、現状のAIが賢くなるということがわかっている。今回はここでは詳しく解説しないが、要するに「お金をつぎ込むだけAIが賢くなる」という、ある意味で単純明快な法則が見つかったのである。
これは投資の世界では極めて珍しいことである。通常、巨額の投資を行っても成果は不確実なものだが、AIの場合は金額が莫大にでかいものなのにもかかわらず投資対効果が比較的予測しやすい数少ない例となっている。だからこそ、アメリカをはじめとする各国が一気に投資を加速させているのである。
実際、OpenAIのGPTシリーズを見ても、GPT-3からGPT-4への進化は、主に計算資源とデータの規模拡大によって実現された。Googleも自社のGeminiモデルで同様のアプローチを取っており、MicrosoftやAmazonも競うように巨額のAI投資を発表している。
既に日本ではLLMの開発では大きな遅れをとってしまっている。もちろんこれは圧倒的にデータを持つプラットフォーマーが強かったという背景がある。
まとめ
英国のメディア企業Tortoise Mediaが行っているグローバルAIインデックス(Global AI Index: 各国のAI能力を包括的に評価するランキングシステム)において、日本はすでに10位以内には入っていない(2024年9月19日に公開: 引用元 https://www.tortoisemedia.com/data/global-ai)。アジアの中では中国、シンガポール、韓国より下だ。このまま投資を怠れば、順位はさらに下がっていくだろう。
「でも、うちはIT企業じゃないから」「AIってよくわからないから」と思考停止している場合ではない。アメリカが原子爆弾や量子コンピューターで見せてきたように、世の中を変える技術には思い切った投資が必要である。
AIも量子コンピューターと同様に、これからのビジネスのルールを根本から変える技術である。今こそ、未来への投資を本格的に始める時である。企業の生き残りをかけて。