2025/11/26

ヤマハもホンダも消えた街。別世界の中国深圳

目次
  1. 電動スクーターが都市を埋め尽くしている
  2. 現金はいらない。財布すら不要。
  3. 制度設計:キャッシュレスは“利便性”だけではなく“統治”と”データ”
  4. 中国はAI時代の最前線にいる

40年前、深圳(シンセン)は人口3万人の漁村だった。そこからわずか数十年で、人口は約1,700万人。別名「アジアのシリコンバレー」。

1979年に改革開放政策の象徴として最初の経済特区(Special Economic Zone)に指定されたことで、外資誘致、規制緩和、税制優遇、国家主導の都市開発が一気に進んだ。

その結果、深圳には中国を代表するテック大企業が本社を構えるようになった。

  • Huawei(通信・半導体・AI)
  • Tencent(WeChat・AI)
  • DJI(民生・軍事用ドローン、世界シェア約70%)
  • BYD(EV・バッテリー)

街を歩くと、多くの高級車が当たり前に走り、ロールスロイス、ポルシェ、テスラ、メルセデスが普通の交差点で信号待ちをしている。

電動スクーターが都市を埋め尽くしている

次に驚いたのは、電動スクーターの存在感だ。ほぼすべてが電動。ガソリン音は一切しない。しかも彼らの多くは車道ではなく歩道を走る。

速度は20〜30km/h。しかも静かで気配ゼロ。

散歩していて突然背後から飛んでくる。

滞在中、接触寸前や事故を何度か目撃した。おそらく彼らの認識は「スクーター=バイク」ではなく、「電動付き自転車」。

だから歩道を走るのが自然らしい。

かつてアジアを席巻していたヤマハやホンダのスクーターは一台も走っていない。中国メーカーの電動モデルが完全に市場を占有している。

現金はいらない。財布すら不要。

深圳では現金(人民元)を一度も触らなかった。

支払いはすべて

  • Alipay
  • WeChat Pay

で完結する。

コンビニ、電車、タクシー、レストラン、屋台、ホテル、コーヒーショップ。

キャッシュレスというより、「現金は時代遅れの文化」と言う方が近い。便利すぎて一度慣れると現金社会に戻れないだろう。

ただし、これらのアプリには英語UIはほぼ存在しない。正直めちゃくちゃ不便だ。

巨大な国内市場だけで成立するため、外国人向けにローカライズする必要がないのだ。14億人の人口がいる内需だけで成立する国家の余裕である。

制度設計:キャッシュレスは“利便性”だけではなく“統治”と”データ”

現金取引が消え、決済データが完全にデジタル化されると何が起きるか。

  • すべての売上記録が残り
  • 脱税は困難になり
  • 消費行動が可視化され
  • 国家は経済モデルをリアルタイムで把握できる

つまり、キャッシュレスは「利便性のため」だけではなく「国の統治設計」でもある。

日本では現金文化が根強く、申告しない売上が存在する余地が多くある。深圳ではその余地は極めて少ない。そして大量のビックデータが集まる。

中国はAI時代の最前線にいる

最終日に訪れた、Shenzhen Science and Technology Museum、建物は Zaha Hadidによるデザイン。

巨大で曲線的で、建物自体が未来の造形物のようだった。展示はAI、ロボティクス、宇宙工学、量子力学、バイオテクノロジーなどなど。僕もChatGPTの助けがなければ理解できないことも多い。たくさんの子どもたちが来館してテクノロジーに触れ、試し、操作し、学んでいた。中国は教育への投資もしっかり行っている。

  • 一党独裁による意思決定スピード
  • 圧倒的な人口を基盤としたデータ量
  • 生活レベルまで組み込まれたキャッシュレス/AI社会
  • すでに世界市場を握り始めているドローン・ロボット・AI技術

例えば、深圳発の企業 DJI は 世界ドローン市場で約70%以上のシェアを握っており、2024年時点で「世界ドローン市場の70%を占める」とされている。ロシア・ウクライナ戦争でドローンが重要な役割を果たしたのは周知の事実だ。

AIの開発競争は、データ量 × 実装スピード ×国家方針で決まる。その条件を最も満たしている国の一つが中国だ。最近香ばしい台湾有事の話とは別にしっかりと認識した方が良い。

用語集

  • 深圳(シンセン): 中国広東省に位置する都市。改革開放政策以降に経済特区として急成長し、「アジアのシリコンバレー」とも呼ばれる。
  • 経済特区(Special Economic Zone): 規制緩和や税制優遇を行い、外資誘致と産業育成を進めるために中国政府が指定した特別区域。
  • Alipay: アリババグループ系のモバイル決済サービス。中国で個人間送金から店舗決済まで広く利用されている。
  • WeChat Pay: テンセントが提供するモバイル決済機能。メッセンジャーアプリ「WeChat」と一体化し、中国の日常決済インフラとなっている。
  • DJI: 深圳に本社を置くドローンメーカー。民生用ドローンで世界シェアの大部分を占め、軍事・物流分野にも影響力を持つ。

関連記事


icon-loading

「AIボーイフレンドを返して!」GPT-5より劣るGPT-4oが愛される理由

GPT-5登場で起きた#keep4o運動の衝撃。4,300人が署名し24時間で旧モデル復活という異例事態から見える現実とは?「デジタルラブレター」「AIボーイフレンド」と表現するユーザーたち。IT企業CEOが語る技術者の本音vs感情AI需要のギャップ、B2BとtoCでの使い分け戦略、AIが人間に近い役割を果たす時代の到来。

icon-loading

イーロン・マスク第三弾 – ニューラルリンクによるAIと人類の共進化ロードマップ

イーロン・マスクのAIプロジェクト群の最終段階ともいえるニューラルリンクを中心に、テスラ、オプティマス、Grokとの連続性と実験事例を詳細解説。脳とAIを直接接続する技術がもたらす人類とAIの共進化の未来像を描く。

icon-loading

イーロン・マスク第一弾 – テスラの自動運転戦略:ウェイモとの決定的な違いとLiDAR不要論

イーロン・マスク率いるテスラの自動運転戦略を解説。ウェイモとのセンサー構成の違い、LiDAR不要論、トップダウン経営による大胆な方針転換、そして完全AI制御への移行までを網羅。長期的にはロボット「オプティマス」との連携を視野に入れたテスラが有利とする理由を探る。

icon-loading

イーロン・マスク第二弾 – 映像で学ぶロボット「オプティマス」が加速する進化の未来

テスラが開発するヒューマノイドロボット「オプティマス」は、自動運転と同じカメラ学習基盤で進化を加速する。家庭や工場でのデータ収集により能力を向上させ、Xの生成AI「Grok」と連携することで自律的知能端末へと進化する、イーロン・マスクの統合AI戦略を解説。

icon-loading

Sora 2:物理法則を操るAIがもたらすディープフェイクの民主化

Sora 2は従来の映像生成AIを超え、物理法則を再現することでリアルな映像を生み出す。Cameo機能を使えば、わずか10秒の動画で誰でもディープフェイク映像の主役になれる。本記事ではSora 2の技術的特徴と、ディープフェイクの民主化がもたらす可能性とリスクを解説する。

icon-loading

LLMが賢くなった方法:穴埋め問題を永遠に解いたAIの進化

大規模言語モデル(LLM)は国語の穴埋め問題を無限に解き続けることで賢くなった。さらに画像生成も同じ仕組みで進化。GoogleやMeta、中国企業がデータを握りAI開発で有利になった背景を解説する。AIはまだ序章にすぎない。