2025/05/30

Duolingo炎上から考える:産業革命時の織工にならないために AIファーストの時代にどう生き残るか

目次
  1. 愛されブランドが一夜にして「悪者」に
  2. 産業革命時の織工たちと同じ反応
  3. 冷静に考えてみよう:感情論では現実は変わらない
  4. 「変化に適応する者が生き残る」の現代版

愛されブランドが一夜にして「悪者」に

つい先日、語学学習アプリで有名なDuolingoが大炎上した。TikTokで670万、Instagramで410万のフォロワーを持つ同社が、一時的にSNSから全ての投稿を削除するほどの大騒動になったのである。

何が起きたのか?CEOのLuis von Ahnが「Duolingoは完全にAIファーストになる」と宣言したからだ。

彼のLinkedInでの投稿を見てみよう:https://www.linkedin.com/feed/update/urn:li:activity:7322560534824865792/

I’ve said this in Q&As and many meetings, but I want to make it official: Duolingo is going to be AI-first.

AI is already changing how work gets done. It’s not a question of if or when. It’s happening now. When there’s a shift this big, the worst thing you can do is wait. In 2012, we bet on mobile. While others were focused on mobile companies or websites, we decided to build mobile-best because we saw it was the future. That decision helped us win the 2013 iPhone App of the Year and unlocked the organic word-of-mouth growth that followed.

Betting on mobile made all the difference. We’re making a similar call now, and this time the platform shift is AI.

AI isn’t just a productivity boost. It helps us get closer to our mission. To teach well, we need to create a massive amount of content, and doing that manually doesn’t scale. One of the best decisions we made recently was replacing a slow, manual content creation process with one powered by AI. Without AI, it would take us decades to scale our content to give learners get them this content ASAP.

AI also helps us build features like Video Call that were impossible to build before. For the first time ever, teaching as well as the best human tutors is within our reach.

Being AI-first means we will need to rethink much of how we work. Making minor tweaks to systems designed for humans won’t get us there. In many cases, we’ll need to start from scratch. We’re not going to rebuild everything overnight, and some things—will take time. However, we can’t wait until the technology is 100% perfect. We’d rather move with urgency and take occasional small hits on quality than move slowly and miss the moment.

We’ll be rolling out a few constructive constraints to help guide this shift:

  • We’ll gradually stop using contractors to do work that AI can handle
  • AI use will be part of what we look for in hiring
  • AI use will be part of what we evaluate in performance reviews
  • Headcount will only go to team cannot automate more of their work
  • Most functions will have specific initiatives to fundamentally change how they work

All of this said, Duolingo will remain a company that cares deeply about its employees. This isn’t about replacing Duos with AI. It’s about removing bottlenecks so we can do more with the outstanding Duos we already have. We want you to focus on creative work and real problems, not repetitive tasks. We’re going to support you with more training, mentorship, and tooling for AI in your function.

Change can be scary, but I’m confident this will be a great step for Duolingo. It will help us better deliver on our mission — and for Duos, it means staying ahead of the curve in using this technology to get things done.

—Luis

Claudeの日本語訳はこんな感じだ:

これまでQ&Aや多くの会議で話してきましたが、正式に発表したいと思います:Duolingoはこれからいっそう AI-first になります。

AIはすでに仕事のやり方を変えています。これは「もし」や「いつ」の問題ではありません。今起きていることです。このような大きな変化があるとき、最もやってはいけないことは待つことです。2012年、私たちはモバイルに賭けました。他の会社がモバイル企業やウェブサイトに注力している間、私たちはモバイルベストという決断をしました。その決断が2013年のiPhone App of the Yearを受賞し、その後の急激な成長を可能にしました。

モバイルへの賭けが大きな違いを生み出しました。私たちは今回も同様の判断をしており、今度のプラットフォームの転換はAIです。

AIは単なる生産性向上ツールではありません。 AIは私たちのミッション達成に近づく手段です。よく教えるためには、大量のコンテンツを作成する必要があり、それを手動で行うことはスケールしません。最近行った最良の決断の一つは、遅くて手動のコンテンツ作成プロセスをAIによるものに置き換えたことです。AIがなければ、コンテンツを学習者に提供するのに何十年もかかったでしょう。今では、学習者がこのコンテンツをASAPで手に入れることを目指しています。

また、AIはこれまで構築不可能だったビデオ通話などの機能の構築も支援します。初めて、最高の人間の講師と同じレベルの教育が私たちの手の届く範囲にあります。

AI-firstであることは、仕事のやり方の多くを再考する必要があることを意味します。人間向けに設計されたシステムに小さな調整を加えるだけでは、目標は達成できません。 多くの場合、ゼロから始める必要があります。すべてを一夜にして再構築するつもりはありませんし、一部には時間がかかるでしょう。しかし、技術が100%完璧になるまで待つことはできません。むしろ、緊急性を持って行動し、品質よりもスピードを重視して時折小さなミスを受け入れ、ゆっくりと行動してタイミングを逃すことは避けます。

この変化を導くために、いくつかの建設的な制約を展開します:

  • AIが処理できる仕事に請負業者を使うのを段階的に停止します
  • AIの使用は、私たちが採用時に探すものの一部になります
  • AI使用は、パフォーマンス評価の一部になります
  • チームがより多くの仕事を自動化できないヘッドカウントに関する質問をします
  • ほとんどの機能は、根本的に仕事のやり方を変える具体的な取り組みを持ちます

これらすべてを踏まえ、Duolingoは従業員を深く気にかける会社であり続けます。 これはDuoをAIに置き換えることではありません。これは、私たちがすでに持っている優秀なDuoとさらに多くのことができるように、ボトルネックを取り除くことです。私たちはあなたに創造的な仕事と実際の問題に集中してもらい、反復的なタスクではなく、あなたの役割でAIを活用することをサポートします。 より多くのトレーニング、指導、そしてツール提供を行います。

変化は怖いかもしれませんが、これはDuolingoにとって素晴らしいステップになると確信しています。これにより私たちのミッション達成により良く貢献できるようになります。そしてDuosにとって、これは物事を成し遂げるためにこの技術を使用する最前線に立ち続けることを意味します。

—Luis

産業革命時の織工たちと同じ反応

この発表に対するSNSでの反発は凄まじかった。「人間を軽視している」「仕事を奪うつもりか」といった批判が殺到した。

産業革命の時代、熟練した織工たちが新しい織機を組織的に破壊して回った事件があった。「ラッダイト運動」だ。彼らの理屈はこうだ:「機械が俺たちの仕事を奪う。だから機械を壊せば解決する」。

でも結果はどうなったか?織機を破壊した織工たちは逮捕され、産業革命は止まることなく進んだ。そして最終的に、機械を使いこなした工場が市場を席巻し、旧来の手工業者は淘汰されていった。

冷静に考えてみよう:感情論では現実は変わらない

Duolingoのユーザーや業務を請け負っていた人たちの怒りは理解できる。愛用していたサービスが急に「AI推し」になって、人間味が失われるような気がしたのだろう。

でも、ちょっと冷静になって考えてみてほしい。

もしDuolingoがAIを活用しなかったらどうなるだろう?他の競合サービスがAIを使ってより良いコンテンツを、より安い価格で提供し始める。ユーザーは当然そちらに流れる。Duolingoの収益は悪化し、結果として今働いている人たちが職を失うことになる。

「変化に適応する者が生き残る」の現代版

ダーウィンの進化論で言われている。「最も強い者が生き残るのではなく、最も変化に適応できる者が生き残る」。

重要なのは、AIが何でもかんでも人間の代わりをするわけではないということ。AIは道具であって、それをどう使うかは人間次第。料理人が包丁を使うように、エンジニアがIDEを使うように、AIも単なる道具の一つなのである。

AIを使いこなせる人と使いこなせない人の差が、今後どんどん広がっていく。それなら、早いうちから慣れ親しんでおいた方が得策だ。

Duolingoの騒動は、結局のところ「時代の変化に適応できるかどうか」の問題だった。

SNSで怒りをぶつけることは簡単だ。でも、その時間を使ってAIとうまく付き合う方法を学んだ方が、きっと建設的だろう。

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