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40年前、深圳(シンセン)は人口3万人の漁村だった。そこからわずか数十年で、人口は約1,700万人。別名「アジアのシリコンバレー」。
1979年に改革開放政策の象徴として最初の経済特区(Special Economic Zone)に指定されたことで、外資誘致、規制緩和、税制優遇、国家主導の都市開発が一気に進んだ。
その結果、深圳には中国を代表するテック大企業が本社を構えるようになった。
- Huawei(通信・半導体・AI)
- Tencent(WeChat・AI)
- DJI(民生・軍事用ドローン、世界シェア約70%)
- BYD(EV・バッテリー)
街を歩くと、多くの高級車が当たり前に走り、ロールスロイス、ポルシェ、テスラ、メルセデスが普通の交差点で信号待ちをしている。
電動スクーターが都市を埋め尽くしている
次に驚いたのは、電動スクーターの存在感だ。ほぼすべてが電動。ガソリン音は一切しない。しかも彼らの多くは車道ではなく歩道を走る。
速度は20〜30km/h。しかも静かで気配ゼロ。
散歩していて突然背後から飛んでくる。
滞在中、接触寸前や事故を何度か目撃した。おそらく彼らの認識は「スクーター=バイク」ではなく、「電動付き自転車」。
だから歩道を走るのが自然らしい。
かつてアジアを席巻していたヤマハやホンダのスクーターは一台も走っていない。中国メーカーの電動モデルが完全に市場を占有している。

現金はいらない。財布すら不要。
深圳では現金(人民元)を一度も触らなかった。
支払いはすべて
- Alipay
- WeChat Pay
で完結する。
コンビニ、電車、タクシー、レストラン、屋台、ホテル、コーヒーショップ。
キャッシュレスというより、「現金は時代遅れの文化」と言う方が近い。便利すぎて一度慣れると現金社会に戻れないだろう。
ただし、これらのアプリには英語UIはほぼ存在しない。正直めちゃくちゃ不便だ。
巨大な国内市場だけで成立するため、外国人向けにローカライズする必要がないのだ。14億人の人口がいる内需だけで成立する国家の余裕である。
制度設計:キャッシュレスは“利便性”だけではなく“統治”と”データ”
現金取引が消え、決済データが完全にデジタル化されると何が起きるか。
- すべての売上記録が残り
- 脱税は困難になり
- 消費行動が可視化され
- 国家は経済モデルをリアルタイムで把握できる
つまり、キャッシュレスは「利便性のため」だけではなく「国の統治設計」でもある。
日本では現金文化が根強く、申告しない売上が存在する余地が多くある。深圳ではその余地は極めて少ない。そして大量のビックデータが集まる。
中国はAI時代の最前線にいる
最終日に訪れた、Shenzhen Science and Technology Museum、建物は Zaha Hadidによるデザイン。

巨大で曲線的で、建物自体が未来の造形物のようだった。展示はAI、ロボティクス、宇宙工学、量子力学、バイオテクノロジーなどなど。僕もChatGPTの助けがなければ理解できないことも多い。たくさんの子どもたちが来館してテクノロジーに触れ、試し、操作し、学んでいた。中国は教育への投資もしっかり行っている。
- 一党独裁による意思決定スピード
- 圧倒的な人口を基盤としたデータ量
- 生活レベルまで組み込まれたキャッシュレス/AI社会
- すでに世界市場を握り始めているドローン・ロボット・AI技術
例えば、深圳発の企業 DJI は 世界ドローン市場で約70%以上のシェアを握っており、2024年時点で「世界ドローン市場の70%を占める」とされている。ロシア・ウクライナ戦争でドローンが重要な役割を果たしたのは周知の事実だ。
AIの開発競争は、データ量 × 実装スピード ×国家方針で決まる。その条件を最も満たしている国の一つが中国だ。最近香ばしい台湾有事の話とは別にしっかりと認識した方が良い。
用語集
- 深圳(シンセン): 中国広東省に位置する都市。改革開放政策以降に経済特区として急成長し、「アジアのシリコンバレー」とも呼ばれる。
- 経済特区(Special Economic Zone): 規制緩和や税制優遇を行い、外資誘致と産業育成を進めるために中国政府が指定した特別区域。
- Alipay: アリババグループ系のモバイル決済サービス。中国で個人間送金から店舗決済まで広く利用されている。
- WeChat Pay: テンセントが提供するモバイル決済機能。メッセンジャーアプリ「WeChat」と一体化し、中国の日常決済インフラとなっている。
- DJI: 深圳に本社を置くドローンメーカー。民生用ドローンで世界シェアの大部分を占め、軍事・物流分野にも影響力を持つ。


